10.経済的自由 10−1 職業選択の自由       22条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。    何人も、外国に居住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。 1.意義  (1)職業選択の自由   …自己が従事する職業を決定する自由  (2)営業の自由=職業遂行の自由   *営業の自由も職業選択の自由に含まれるか。B    →通判)営業の自由も職業選択の自由に含まれ、22条1項で保障される。    r.自己の従事すべき職業を決定する自由だけではなく、自ら選択した職業を行なう自由まで含まれると解       さなければ、職業選択の自由を保障した意味がない。 浦部)営業の自由は22条と29条によって保障される。    r.営業することの自由のみを22条は指し、「何をいくらで誰に売るか」というような広義の営業活動の自       由は財産権行使の自由として29条から導かれる。 2.限界  (1)規制の根拠   …消極的な内在的規制の他に積極的な政策的規制が予定されているため、職業選択の自由は精神的自由に比して一般的    により強い規制を受ける。(二重の基準論)  (2)規制の類型   消極目的による規制   )届出性…理容業       (警察的規制)   )許可制…古物商・質屋・風俗営業・飲食業・貸金業       )資格制…医師・薬剤師・弁護士   積極目的による規制   )独占制…郵便事業・かつての煙草専売制       )特許制…電気・ガス・水道・鉄道運送などの公共性の強い事業       )私企業規制…独占禁止法・大規模店舗の出店制限  (3)規制の違憲審査基準   *職業選択の自由に対する規制の合憲性判定基準   A 通判)合理性の基準 消極目的規制 厳格な合理性の基準で判断(≒LRAの基準) 積極目的規制 合理性の基準/明白性の原則で判断  r.必要性−積極的規制は概して経済的弱者保護のための規制措置であって、そのような規制は立法府の裁量的     判断に待つ領域が極めて広いのに対して、消極的規制においては、伝統的な警察比例の原則(規制    措置は社会公共に対する障害の大きさに比例したもので、規制の目的を達成するために必要な最小      限度に留まらなくてはならない)が作用し、規制手段は目的達成のために必要最小限度のものに留      まるべきである。    許容性−積極的規制は社会・経済政策を実施するための規制措置であり、その合理性・必要性の判断は裁判     所の審査能力の限界を超えるのに対して、消極的規制は人の生命・健康に対する危険を防止するた    めの規制措置であって、その合理性・必要性の判断を裁判所が行なうことは比較的容易である。     さらに規制の態様が職業選択の自由そのものに対する制限でしかも本人の能力に関係なく制限が課せられる場      合には規制の強力性に鑑み、規制の目的の如何に関わらず厳格な審査が要請される。 10−2 居住・移転の自由       22条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。    何人も、外国に居住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。 1.意義  居住・移転の自由→経済的自由としての側面…封建体制を否定し資本主義経済の前提を作るという意味。   精神的自由としての側面…知的接触による人格形成という意味。   人身の自由としての側面…自己の移動したい所に移動できるという意味。 2.海外渡航の自由  *海外渡航の自由は何条によって保障されるか。B   →22条2項説(通判)r.22条は国内に関連するものを1項に、外国に関連するものを2項に規定している。    憲法が永住のための出国を保障しながら、旅行のための出国を認めていないと解すること        は不合理である。  *「著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行為を行なう恐れがあると認めるに足りる相当の理由がある者」   に対して、外務大臣は旅券の発給を拒否できるという旅券法13条1項5号は合憲か。B   →違憲説(通説) r.海外渡航の自由が精神的自由の側面を有することを考えれば、明確性の理論により法令違憲となる。   法令違憲とならなくても少なくとも害悪発生の相当の蓋然性が客観的に存在しない場合の拒否処分は明白かつ       現在の危険の理論により適用違憲となる。   旅券は政府が発行する身分証明書であり、政策的観点からの制約を認める渡航許可証ではない。    犯罪行為限定説:「著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行為」を原則として犯罪行為に限定して合憲     限定解釈する。c.精神的自由の側面に鑑みると限定解釈を加える余地はない。    合憲説(判例):外国旅行の自由と言えども無制限に許されるのではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服す     る。旅券法の規定は合理的な制限を定めたものであり、合憲である。 3.国籍離脱の自由 10−3 財産権の保障       29条  財産権は、これを侵してはならない。    財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。    私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。 1.財産権補償の意味(29条1項)  *財産権の保障の法的性格。29条1項は何を保障したものか。A   →一説)1項は、「法律で定められる財産権」の不可侵を定めたものである。   r.29条は、1項で「財産権は、これを侵してはならない。」と規定しながら、2項で「財産権の内容は、公      共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。」と規定している。   c.1項は、法律の成果を保障するに過ぎないことになり、憲法規範としての意味を失ってしまう。    通判)制度的保障説‥29条1項は私有財産制を制度的に保障する(制度的保障)とともに、個人の現に有する具体        的財産権を保障することをも含む。   r.少なくとも個人の日常生活に不可欠なここの財産が憲法上保障を受けないというのでは、「財産権」の保障       が余りにも相対化されてしまう。  *財産権の保障を制度的保障と解した場合に法律によっても侵しえないとされる私有財産制の核心とは何か。C   →体制保障説(通説):制度して保障されるのは生産手段の私有を内容とする資本主義体制である。 2.財産権の一般的制限(29条2項)  (1)公共の福祉による制限   *財産権の規制の根拠は何条に求められるか。    →通説)29条2項は、1項で保障された財産権の内容が法律によって一般的に制約されるものであるという趣旨を      明らかにした規定である。   *違憲審査基準      →二分論(職業選択の自由と同様) …自由国家的公共の福祉に基づく財産権に対する内在的制約(消防法・建築基準法等)→厳格な合理性の基準 …社会国家的公共の福祉の見地からする財産権に対する政策的制約(独禁法・文化財保護法)→合理性の基準  (2)条例による財産権の制限   *条例によって財産権を制限することは許されるか。A    →肯定説(通判):法律の委任がなくても条例で財産権を制限することが許される。 r.条例は地方公共団体の議会において民主的な手続によって制定される法である。     地方的な特殊の事情が存在する場合もある。 3.財産権の制限と補償の要否  29条 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。  (1)29条3項の趣旨 財産権不可侵の原則の徹底   { 公共の利益のために特定人に加えられる経済上の損失は全体において負担すべきであるという平等原則の契機。   「公共のために」   *29条2項と3項の関係。29条2項により財産権が制限される場合にも3項の補償を要するか。A →従来の通説)2項による制限には3項の補償を要しない。    r.2項による財産権の内容に対する制限は、当該権利の剥奪ないしそれに類するものであっては      ならず、しかも特定の個人に不利益を与えるものではなく、一般的な性質を有するものに限ら  れる。これに対して3項は、財産権に特別の犠牲が加えられた場合の補償規定である。    c.現代国家における財産権補償のあり方からして妥当でない。  制限の可否と補償の要否とは一応別個の問題である。  近時の有力説)2項による一般的制限でも同時にそれが3項の規定により補償を要すると解される場合がありう      る。      r.1項が個人の財産権の補償を意味するものである以上、2項による財産権制限が既得の権益に     対してどのような侵害的効果を生じても、なんらの補償を要しないとするのは困難である。   *補償の要否の判定基準をいかに解すべきか。A    →形式・実質二要件説(佐藤幸)  :相隣関係上の制約や、財産権に内在する社会的制約の場合には補償は不要であるが、それ以外に特別の犠牲を       加えた場合は補償が必要である。   「特別の犠牲」と言えるかどうかは、 侵害行為の対象が広く一般人か、特定の個人・集団かという形式的要件、    侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受任すべき限度内であるか、それを超えて財産権の本質的内       容を侵すほど強度なものであるかという実質的要件の2つを総合的に考慮して判断すべきである。 実質要件説(芦部):上記 を中心に補償の要否を判断する。  (2)正当な補償   *正当な補償とはどのようなものか。A    →完全補償説:当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきである。 相当補償説(宮沢):正当な補償とは、合理的に産出された相当な額を言うのであって、必ずしも常にかかる価格          と完全に一致することまでは要しない。 完全補償原則説(芦部):完全補償が原則であるとするが例外を認める。  r.損失補償制度の目的である平等原則により、既存の財産権秩序の枠内において特定の財産の使用価値が特別     の犠牲に供される場合には、完全な補償がなされなくてはならない。但し、既存の財産権秩序を構成するあ      る種の財産権に対する社会的評価が変化したことに基づき、その財産権が公共のために用いられるという場    合(農地改革など)にはその原則は及ばず、相当補償で足りる。  (3)法律で補償規定を欠く場合   *法令が補償規定を欠く場合に29条3項を直接根拠にして補償請求ができるか。    →通判)直接29条3項を根拠に補償請求をすることができる。    r.財産権は、憲法が保障する具体的権利であり、29条3項は、その財産権を公共の利益のために用いた          場合の救済規定であって、当然に憲法上補償請求権が生じると見るべきである。  生存権と異なり財産権の補償額は収容当時の対象資産の価値を基準にして裁判所も十分算定しうる。  (4)損失補償と国家賠償の谷間の問題   *予防接種禍において29条3項を根拠として補償請求できるかそれとも17条に基づく国家賠償法による賠償請求を    なすべきか。前者が国の適法行為による「財産」権侵害を対象とするものであるのに対し、後者は国の「違法」行為によ    るものであり、いずれにも該当しないように見えるため問題となる。A    →29条3項類推説   r.この被害は、予防接種の実施に随伴する公共のための特別犠牲であると見ることができるが、この犠牲は生     命、身体に対して化せられたもので財産権の特別犠牲に比べて不利に扱われる合理性は全くない。  c.損失補償の規定を用いることは、生命・身体であっても補償さえすれば適法に侵害できるということを認め     ることになる。生命・身体は金を払っても適法には侵害しえないと考えるべきである。 17条説(浦部)  r.国の賠償責任を国家活動が国民の権利を侵害する危険を孕んでいることに伴う危険責任として構成すれば   、 国家賠償法1条にいう公務員の故意過失も公務員個人の主観的責任要件ではなく、行為の客観的瑕疵を意味       すると解することができ、違法な結果が発生した場合には過失が推定されるとする。